第九十話 Iが止まらない / それすらも飲み込む大河
出立100日目 インド15日目 ヴァラナシ4日目
本日もヴァラナシは朝靄がかかっていた。
乳白色に沈んだ街に、少しずつ差し込む紅い太陽の光。
靄が徐々に晴れ、ガンガーが水面に美しく日の光を反射していく。
黄金色に輝き、街が目を覚ました。
多くの住民が、旅人が、この神聖な儀式を見守り、自分たちの生活に戻っていく。
かくいう私も謎のメレンゲスイーツを楽しんでからオレンジを買い、ホテルの屋上でビスケットと一緒に朝食である。
メレンゲスイーツ。ボリュームありそうで実体のない泡。だからなのか、客は少なかった。
登る朝日に照らされて、ガンガーを見つめながらの朝食、エクストリーム!
そこに珍客来来。お猿さん!
俺のオレンジとビスケット狙ってやがる!渡さへんで!
奴もこちらの間合いには入ってこない。日本と違って、餌付けはされていないからだろう。
食い終わったオレンジの皮を横に置くと、それを取る猿。
バカめ!(檜山)ただの皮だ!
筋食ってやがる!
ああ、内側の、その白い部分ね。食えるんだ……。
その後、複数の猿が現われて皮争奪戦。そんなにひもじいのか、お前ら……。
しかし、エサはやらん!
まぁ、最後に来た猿とちょっとバトルする羽目になったけどな!
昼には温室になってしまうホテルで少し休み、コーヒーを飲んでJさんと昼食へ。
メグカフェという、インド人と結婚されたメグさんのお店で、日本食が食える。
(『地球の歩き方』で見るイメージよりもずっと奥にあるから信じて進め)
しょうが焼き丼をチョイス。インド料理よりは当然高いが、日本米でしょうゆベースの味。うれしい。
しかし、こちらの感動を伝えるのは難しいだろう。どっちかっていうとインド料理の話した方がいいんだろうなぁ。
でもね、ほとんどカレー味だよ?まぁ、最強だけどな。程度の差があってもカレーなんだよ。レポートもクソもないよ。しかもここら基本的にベジの地域だから、どこでもだいたいベジカレーだよ。野菜も同じ市場で仕入れてるよ。毎日ほか弁のからあげ弁当を違う店舗で買ってレポートするようなもんだよ。ご飯の炊き方とか冷め方くらいしか言うことないわ!
ああ、いかん。カレーまみれの右手で打ったせいで大変なことになった。
個人的には飽きていないけど、言うことないっていうかさ、うん。
リクシャー(オートではなく、おっさんが必死にペダルをこぐことで進む自転車タイプ)で本日の目的地へ。当然インドでこの仕事をするからには、弱虫ではペダルがこげない。
ドゥルガー寺院へ。
ヒンドゥー教の神様のドゥルガーを祭っているらしいが、なんていうか、やっぱルールがわからない。
中撮影禁止なのに、インド人はバリバリ撮ってるし。Jさんもだけど。
ラッシーを食べてから、お隣のトゥルフィーマーナ寺院へ。
地元民に大人気で、こちらも撮影禁止。日本の寺のように、お堂正面の中央と左右にそれぞれ違う象が祭られているのだが、どの像も青白い顔してるし、違いが全然分からん!違う神様なのか?どうなんだ?
生憎、ヒンドゥー語の表記しかないため、何もわからない。
麻原みたいなおっさんが口を動かしながら本のページをめくってる風の動きをする奇怪なからくり人形が入口に飾られ、にもかかわらず甲高い女性の声でインドの曲がスピーカーから流れている。
奥に行くと4Rで似た様な人形たちの展示が見れるようだ。
カオス!!
背景がわからない宗教施設程、困惑するものはない。勉強不足であった。
帰りはガンガーをガート沿いに北上。日が傾いてきたので、チャイを買ってガートに腰かけ、定点観測カメラよろしく、ガンガーと行きかう人々の波を見つめる。
この街最大の娯楽は。やはりこれだろう。静かな時の流れに身を委ねる至福の時。
話しかけないで、インド人。
話しかけてきたインド人の言葉から、何やら「お祈り」が始まるらしいので、ステージっぽいものがあるガートを見下ろしてみた。
ステージ周りの川面を船が覆い尽くし、岸部も人で埋め尽くされ、煌々とライトが照らされる中、インド人らしからぬ今風な若者たちが現われ、歌い出した。
歌い出したっ!?
こちらの困惑をよそに、それぞれの席に戻ったアイドル風の男たちは、鐘と民族音楽に合わせて、お線香を持って正面・側面・背面と一連のアクションを行い、今度は火を持って同様にする。
荘厳だが、やっぱりルールがわからない。何が、いや、お祈りなんだろうが、行われているのか理解できない。歌詞も。
カオス!!!
同じ動作を持つものを変えて行っているんだろうということで、途中で切り上げた。
これが船上からなら、終わるまで見なければいけなかった。危なかった。
夕食は数日前にエッグカレーがおいしかったレストランへ。ターリーを頼んだが、これはふつー。つまりイマイチであった。
そういえば、ガート北上の折に、これまた麻原みたいな人が派手な船上から歌を歌うという奇妙な光景に出くわしたっけ。あれもヒンドゥー教絡みなんだろうか。
あー、わかんねぇ。