第百六十三話 Tはわかってくれない / Ride on 心音風景
出立9日目(通算172日目) トルコ8日目 カッパドキア3日目
早朝、周りが騒がしい。時間はまだ3時過ぎだ。
バルーンツアーに出掛ける人間が多い様で、いそいそと出ていく。周りの欧米女子たちもいそいそと出かけて行った。
遅れること2時間、今日こそはとYさんと合流して昨日同様、近場のビューポイントを目指す。
同じことを考える人間は何人かいるようで、道すがらや山頂にも多くに人影が。って、おおっ!!
めっちゃ飛んでる!!
各社の多様な柄が、見ているこちらとしても楽しいが、ずっと低空を彷徨っているものもある。あー、完全に外れだわ……。ギリシャ国旗と同じカラーのバルーンというのが、何とも時事ネタであるが、乗ってる人間からすれば、気分は浮かない。だってこっちより低いから……。
欧米人客なら、返金騒動不可避だろう。
少し休んでから、Yさんとサイクリングに出掛けた。
カッパドキアの現地ツアーにはグリーン、レッド、ブルーの3つの基本ツアーがあるが、このうち比較的近場を巡るレッドの道を茶利で行こうぜ、となったわけである。
前日行ったウチヒサルは除いて、ね。
というわけで出発!なんか火野正平さんみたいな気分で、頭には「こころたび」が流れるぞ!
マップアプリ上の「観光スポット」とされるところにも寄っていく。最初の「Chuvashin Castle」は岩をくりぬいて作ったと思われる構造物。軽く写真を撮った程度だったが、現地の子ども曰く「別に面白くない」らしい。まぁ……ね。
続いて、「PASSABAGI」へ。
ここは「しめじ岩」と通称される奇岩が並ぶ場所。どういう経緯なのか、頭に岩が乗ったように見える形になっている。こんなのがやたらめった並んでるんだから、観光名所にもなるわな。
お昼を回ったので、街で購入していたケバブサンドを道端で食す。
穏やかな風が吹き、快晴の元でも木陰は涼しく、ゆったりと時が流れる。自分の足でいく旅の醍醐味だろう。
脇道の麦畑を走り抜け、頭には「麦の歌」が……って、今日はNHK特集か?ww
ラクダ岩や
ナポレオンの帽子と呼ばれる岩たち。道路の途中でポツンといきなりあらわれるが、売店もあり、観光スポット。
既に20km程進んでおり、疲れた我々はここでコーラを買おうとしたが、1本5TLといわれ、諦める。普通、麓なら半額くらいだ。足元見やがって……。
先程から抜きつ抜かれつしていたブラジル人カップルと話をしていたら、売店のおかあさんが話しかけてきた。
「貴方たち日本人なの?」
「そうですけど……」
「なんだ!それなら2本で5TLでいいわよ!中国人かと思ったから」
おかあさんんんんっ!?
何その変わり身っ!?いやありがたいけどね!買うけどね!
いろいろ話したが、結局最後まで聞けなかった。一体、中国人に何をされたんだ?
しかも、去り際に凍ったペットボトルとドライコーン(?)までくれる。
前者は、この日のものすごい日差しに真っ赤になった私の顔に見兼ねて「これで冷やしなさい」と、後者は「ナッツとどっちがいい?」と味見までさせてくれた。
おかあさんんんんっ!!滅茶苦茶いい人なんですけどぉっ!!
まんなかがおかあさん。お世話になりました。
心が温まったところで、再び出発。
先日来で申し訳ないが、なんかドラゴンボールっぽい景色なので。
激しいアップダウンに悶えながら、続いて到着はユルギップという町。
ギョレメに比べてかなり都会で、店も先進国的な感じ。
ここでYさんから「ハマム行こうぜ?」という提案があり。
ハマムとは、サウナ~垢すり、マッサージをしてくれるところで、表記としては「Turkey Bath」であるが、みんな大好き「トルコ風呂」ではない。
石造りの浴室でサウナ~リラックスし、マッサージ室へ。
胸毛と口髭も勇ましい、コロッセオで110勝してます、みたいな屈強なウォーリアー風味のおっさんが登場。
垢すり開始。出るわ出るわ!なんかあんま言いたくないがな!
それから横にされ、袋状の巨大なタオルに空気を含ませ、体の上で絞ると、大量の泡が体を包む!思わず感動の声をあげたのもつかの間、ウォーリアーによる渾身のマッサージが始まった。
人生初のマッサージだったために免疫がなかったのは認めるが、あまりの剛力無双に大絶叫と大爆笑。痛いしくすぐったいしで阿鼻叫喚。ほかのおっさんやYさんにまで爆笑が引火した。
らってー、痛いんらもーん……。
かくして、文字通り泡嬢もとい泡おっさんによって初のトルコ風呂を、絶叫身悶えビクンビクンで終え、超スッキリ。水を弾くくらい。肌つるつるになったのであった。
上記諸々込で32.5TL。
再出発し、3姉妹岩と呼ばれるスポットへ。
そろそろ日が沈むぞ!
日没の絶景スポットへ走る。
料金所で2TL支払い、少し休憩。ここの料金所のおっちゃんと話す。このおっちゃんも気がいい。
それにしても、おかあさんやウォーリアーもだが、迷う我々にここまでの道を教えてくれる人もいて、今日はいろいろな人のやさしさが身に染みる。
イスタンブールのツアー周辺の人間たちで惑わされたが(ま、アイツらもそこまでしつこくなかったけど)、トルコ人は滅茶苦茶いい人が多い。
しかもものすごい親日。日本人とわかると、その親切度が上がる。
なんか、どうにか恩を返したいww
そうこうしているうちに、観光バスやらがスポットへ向けて大量に押し寄せる。
日本人ツアー客と少し話し、辺りにはアジア人だらけ。
人が群れる位置から少し上がった位置に、欧米人カップルを発見。
音楽効きながら、ワインを傾けている……。
ここまでチェアやグラス、スピーカーなんかを持ってきたのである。そして夕日を眺めながら、愛を語り合う……。
テライケメンの所業ww俺でもホレるww
しかもこのカップル、愛想もよく、笑顔で挨拶してくれる。
それならこちらも彼らの雰囲気を大切に……と、誰でもわかりそうなものを、その背後にレジャーシートを広げ、写真撮影で盛り上がる中国人。
おまえらは、だから嫌われるんだよ。
空気読め。
日が暮れる中、ギョレメに戻る道で、Yさんの自転車のハンドルが緩み、走行が困難に!なんてこった!
かくして、街に戻ったのは21時過ぎ。
ヘトヘトで飲むビールはうまかった!そして夕飯はこちらの「MANTI」なる伝統料理。
ラビオリにヨーグルトをダイレクトにかけた、思い切りのいい料理。
ヨーグルトの酸味が疲れた体に染みわたる。絶妙な味だが、間違うとマズくなりそうだな……。
最後に残ったワインを。カッパドキア産。左手前はおかあさんにもらったコーン。香りが鼻から抜けて美味しい。
走行距離40km近く。日焼けと三十路の筋肉痛に恐怖を覚えつつ、眠りにつくのであった……。